海上貿易が活況を呈し、コンテナ船を筆頭に貨物船の造船需要が爆発的に増えている。イギリスの海運調査大手のクラークソンズ・リサーチが7月6日に発表したデータによれば、世界の造船会社が2021年上半期に受注した新造船の数は累計766隻、受注量は前年同期の2.92倍の2402万CGT(標準貨物船換算トン数)に達した。上半期の受注量としては2014年以来の最高記録更新である。

また 世界の造船会社では6月末時点で合計8091万CGTが建造中であり、そのうち中国、韓国、日本の3カ国の占める比率が82%に達している。具体的には中国が3041万CGTでシェア38%、韓国が2673万CGTで同33%、日本が890万CGTで同11%となっている。

以前にも書いたが、日本の造船業が世界トップに躍り出た直後のヨーロッパ造船業の受注状況と似通った経過を辿っている。

中韓の状況

鋼材価格の上昇が続くなか、中国・韓国の造船業界は厳しいコスト環境にさらされている。5月18日、国有造船大手の中国船舶集団(CSSC)は決算説明会で「新造船の受注価格は多少上がったものの、造船に用いる鋼材の値上がり幅のほうが大きく、利益率に悪影響を及ぼしている」と説明した。韓国も同様の気配である。

中国造船所の取材に対する回答に「2万4000TEU(20フィートコンテナ換算)級のコンテナ船を例にとると、船体価格は約1億5000万ドル(約163億5000万円)になる。それに対して建造に必要な鋼材の値段は近頃2000万ドル以上も跳ね上がり、船体価格に占める鋼板価格の割合が昨年末の25%から40%近くまで上昇した」と語った。

造船業界は鋼板などのコスト上昇は利益を大きく圧迫し利益を出すのが難しい。従って安価に受注している仕事の大部分は、鋼板価格の上昇により赤字回避は避けられない。だからと言って受注しなければ、ドックの確保もできず、生産も止まってもっと赤字になる。造船所は仕方なく受注している状況になる。

韓国からのニュースを読む限り同様の状況である。この中で韓国の新規受注は今年後半には中国を追い抜く可能性があるペースと聞けば・・・工程の効率化などだけでは乗りきれないのに何を考えているのとしか思えない。

日本の状況

造船業は国際競争が激しく、生産能力も過剰気味になっている。「船主は世界各地の多数の造船所から見積もりを取って価格を比較する。

一般的に造船契約は変更がきかず、契約時に船主と造船所の間で価格、支払い条件、引き渡し時期を決めてしまえば、契約期間中の原材料価格の上昇、為替変動などのリスクはすべて造船所が引き受ける。そのため、造船市場が好調なときは、船の価格と支払い条件は造船所にとって有利に働くが、市場が低調なときは船主に有利となる。

日本は中韓に比較して造船コストが高いため、受注競争は中国と韓国の一騎打ちになっている。韓国の造船会社は高度な造船技術が必要とされる液化ガス運搬船で優位に立つのに対し、中国の造船会社はコンテナ船やばら積み貨物船の受注に注力している。

従ってコンテナ船など中韓に受注余力がなくなった現状を利用して、適正価格に近付けた受注を進めるしか無い様である。まさに「落穂拾い」となる。

造船業界は厄介な立場に置かれている。船の値段は船主の言いなりで、鋼材価格も鉄鋼メーカーの要求を受け入れるしかない。造船は間に挟まれて耐えがたい状況に追い込まれているので、「待てば海路の日和あり」とするしか無い様である。

クラークソンズ・リサーチが発表している新造船価格指数は、今年6月に138.5を記録している。2017年3月の121.4と比べて14%高い水準にあるのを見ても、受注後の厳しさが見えて来る。更にカーボンフリーの掛け声が鉄鋼まで及んで価格高騰していくと見込め、日本の造船「不幸中の幸い」状態とも思える。

不確実で激動の時代 おじさん造船業界に知人・後輩が多いだけに、何処に流れて行くのか気に掛かる。

投稿者

おじさん

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