住友重機工業(以下 住友重機)が機関銃の新規試作を辞退するとの記事が、今月初めに流れていた。まあ仕方ないのかなと思った。おじさんも一度は豊和工業に入社することも考えた。しかし 銃の制式化の歴史を見るとあまりに長すぎることに驚いた。制式化されるような銃の開発に巡り合うのは、一生涯で一度あるかないかと思い 就職は辞退した。このことを逆に言えばメーカーは技術者を 遊ばせておかないといけないことを意味する。これではメーカーは維持することさえ難しい。
おじさんの時代は7.62ミリ62式機関銃の時代である。実はこの時代には「日特金」が7.62ミリ62式機関銃を製作していた。後年住友重機に日特金が吸収されて 現在に至っている。何故 日特金がメーカーに選ばれたのか理解してないと機関銃について語ることは出来ない。
銃身交換
機関銃の銃身は連続発射の為 相当な温度まで加熱される。従って形状は冷却などを考慮しなければいけない。旧日本軍の3連射射撃所謂3点バーストはこのオーバーヒート対策でもある。最近ネット上では この付近の事情を知らない自称マニアな方々がいろいろ意見を言われている。正直 技術の歴史を知らない暴論としか思えない。
3点バーストとして断続的に運用して 銃身の保護を計り、無駄な弾を使わないという日本的な合理性の為である。打ちまくるのは非常時・最後と心得ている。だがそんな過酷な運用時は銃身を交換する必要が出て来る。銃弾の連射により銃身が赤熱していき、鋼材強度などの限界に達する。同時に銃弾に早爆(実包の自爆)などが発生し危険になる。
銃身交換・部品交換の際 部品間に必要な寸法精度(公差)は5/1000mm以下に収めることである。戦前から最終組み立ては名人芸に頼ることも多かった。これにより 戦闘中に部品を交換出来ない事態が多発した。当然故障部品を補って現場で行う「ニコイチ整備」などは 兵士に技術がないと無理であった。
現在は恒温室内のMC工作機械などで上記の精度は確保できる。現在の製造技術水準では互換性を確保できると見込まれる。
昭和62年当時 日特金は指定された加工精度を確保出来る数少ないメーカーであった。当時のTVはブラウン管であり、画像の歪を出さないためには画面のガラスを3/1000mm以下の精度で作らなければならなかった。そのガラス金型を製作出来るメーカーであった。当時は碌な機械もなかった時代よくそこまでの職人芸と思う。また豊和工業同様 戦前からの技術者の流れもあったことは否定できない。
なお おじさんが研修したのは敵対的メーカー豊和工業であるので 辛口のコメントなども聞いた。これで住友重機が抜ければ 日本の銃器メーカーは「名古屋の豊和」と「高知のミロク」となってしまう。
遊底の作動
自動小銃の多くは AR15などアーマーライト社の開発前後から ガスオペレ―ションを用いて遊底の閉鎖解除、後進、薬莢の排出を行うのが主流となった。しかしこれは機関銃に比べて少ない発射弾数の為、使用されるのが通例である。銃身交換も可能な機関銃の遊底の閉鎖方法は ブローバックを基本に遅延システムを加えた形である。遅延システムは詳しく書かなくても 遊底について書いてあるwikiなどで確認できると思う。お好きな方なら・・・今更となるので控える。
これにより銃身交換もスムーズに行われる。もしガスオペレ―ションを用いたなら ガスオペレ―ション用のロッドあるいはガス流路を繋ぐ余分な作業を 戦闘中の兵士に課すことになる。そんなバカなことを求めることはしない。また発射弾数からも火薬の燃焼ガスでの汚れも早く、ガス流路の清掃まで考慮しないといけない。従って他国内メーカーに開発を依頼する場合は、それなりの開発の為の時間猶予と経営支援が必要になる。
最近 5.56mm銃弾が反動が少ないが、弾丸自体の威力に乏しいと伝えられる中、米軍が変更方向を打ち出し口径増加の予定である。スグに開発方向を変更するには難しい状況と住友重機は判断したのかもしれない。住友重機も柱の一つである造船事業の落ち方を見ていると 大局的経営的判断とも理解出来る。防衛産業に携わる企業は美味しいところだけ食べられて、おまけに一般からは高価格品と誹られる。遣っていられないというのが本音の様な気がする。